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母で主婦で会社員の中年のもろもろの記録

日本の医療財政

タイトルが…なんか固い…以前記事にしたゾルゲンスマの薬価が決まったようなので、記念に(?)真面目な記事を残しておこうと思います。

中医協ゾルゲンスマについて、1億6707万の薬価を了承したとのことです。静注1回です。アメリカの2億超には及ばないものの、これまで日本の薬価最高額だったキムリアを大きく上回る価格となりました。

ちなみに、ゾルゲンスマの審査に1年4ヶ月も要したことについて、指示や照会に対するノバルティスの回答や対応に遅れや不備が目立ったということで、PMDAは「申請者の認識が極めて不十分」と激おこ。この審査報告書は公表されています。承認審査への対応をめぐってPMDAが企業をここまでこき下ろすのは異例だそうですが、この経緯を読むとたしかに、舐めてる、という感じが否めません。なんでこんなことになったんでしょう。厚労省も、ノバルティスに再発防止策を講じるよう指導したことを明らかにし、さらに、これが講じられるまで、ノバルティスの先駆け指定については指定要件への該当性について厳しく判断すると述べています。 

まあそれはさておき、ノバルティスは、日本での発売2年度目のピーク時売上高を、薬価ベースで43億円(投与患者数25人)と予測しているとのことです。この数字は医療用医薬品の市場では大きい額ではありません。日本の場合、皆保険制度と高額療養費制度があるので、患者さんの負担は微々たるもので、この医療費はほぼ全て国が負担することになりますが、この1剤が医療財政を圧迫するという額でもありません。

ブロックバスターと呼ばれるような、年間1000億以上を売り上げる薬剤が、世界には100製品以上あります。薬価が取り沙汰されるときは、文脈として大抵、真っ赤な日本の財政のなかでも特に膨らみ続ける医療費が、高額の新薬によって更に増大することへの危機感に焦点が当てられます。

記憶に新しいところでは、オプジーボの薬価が上市からわずか4年で76%下げられました。これはこれまでは有り得なかったことで、小野薬品さんも呆然だったことでしょう…医薬品業界でも議論を呼びました。ギリアドさんのハーボニーやソバルディも然りです。

わたしは一納税者として、それに娘を未来の納税者にすべく育てている親として、国の医療財政に対する危機感には同意です。ただ、新医薬品の薬価に対する厳しい視線には、いつも、ひとこと物申したいような気持ちになります。新医薬品がアンメットメディカルニーズを満たすためには、開発コストの高騰が、ある程度やむを得ないためです。キムリアやゾルゲンスマの薬価が叩かれたりすることはないでしょうけど、国やメディアには、考え方のバランスを保っていただきたいです。

日本の医療費の総額は2017年で43兆円だそうですが、こういう大きいお金って想像力を麻痺させますね。数字を見てもピンとこないけど、まあ莫大なんだなとぼんやり思います。これは、日本の医療制度が手厚いことの表れでもあります。日本は欧米と比べて本当に病院の敷居が低いですが、これは素晴らしいことで、高水準の医療に低い負担でアクセスできるのは本当に有難いことです。子どもを持ってからはとくにそう思うし、パリに住む弟一家も、検査や歯科などちょっとこみいった受診は帰国時です。弟は15年近くパリで仕事していて、永住権も持ち家もありますが、いずれは帰国するという考えは変わらないようです。もちろん医療のせいだけではないと思いますが、日本の皆保険制度はWHOも高く評価するところで、世界に誇れるものです。だからこれだけの高齢化社会を実現できたのだとも言えます。

ただ、このままでは今後の医療財政が立ち行かないのも現実です。ここで、近年高額化が著しい新医薬品を攻撃する以外にも、できることはあると思います。たとえば、生活習慣病に投入されている莫大な額などにもっと注目すべきと思います。いや、してるんでしょうけど、対策は講じているんでしょうけど、なかなか数字に表れてきません。たとえば2型糖尿病なども生活習慣病のひとつですが、2017年の年間医療費は1.2兆だそう。人工透析の年間医療費は1.6兆。いずれも増加の一途を辿っている様子です。

日本の糖尿病患者数は1000万人を超えると言われますが、その9割以上を占める2型糖尿病は、基本的には予防可能な疾患です(遺伝要因もあります)。一方、腎症を合併して人工透析までいってしまうと、殆どの患者は一生、1回4時間、週3回の透析から逃れられず、QOLは大きく低下します。もちろん人工透析の原因となる疾患は他にもありますが、割合として最も大きいのは糖尿病性腎症で39%。でも、透析に至るまでに、2型糖尿病には何段階ものステップ、いくつもの改善の機会があります。こういった、治療から予防医療への転換ということを、厚労省の賢くて優秀な官僚のみなさんが、なんとか政策や提言に落とし込めないものでしょうか(他力本願)。大きいお金も、もとは国民1人1人が積み上げるものですから、わたし自身は、自分と家族の体を大切にすることを肝に銘じたいと思います。

ああ、なんでこんな話になったのか…よく分からなくなってきました。

わたしは昔、自分さえ息災なら政治も経済もどうでもよい若者だったのですが、今の仕事が長くなり、子どもを育てるようになって、考えが変わりました。その一端が、日本の医療についての考え方です。基本的にわたしは日本は(相対的に)いい国だと思っていて、娘のためにも、もっとよくなってほしいのです。

疲れたのでこの辺で。